レンジャースクールはアルミア地方の中東部に位置している。
東西を分かつように広がる海に、西側——ビエンタウン側から突き出た半島そのものがレンジャースクールの敷地だった。
ちょっとした町なら一つくらいはスッポリ収まるほどの広さの敷地の北端に、スクールの校舎が建てられている。
校舎は壁から屋根まで、外観がこげ茶で統一されただけという地味なものであり、青々と広がる芝生のグラウンドの隅っこに申し訳なさそうに佇んでいるかのようだが、それはスクールのモットーの一つである『質実剛健』を目に見える形で体現したものだと言われている。
敷地には野生のポケモン(ピチュー、スバメ、ビッパ、スボミーが主である)が住んでおり、彼らはやがてレンジャーとして活躍していくであろう学生たちのキャプチャ技量を高めるために協力してくれているそうだ。
敷地の南端にある立派な校門をくぐったアカツキとヒトミは、目の前に広がるレンジャースクールの景色に、思わず足を止めていた。
「わあ……写真では見たことあるけど、やっぱり実物は違うよね〜」
「そうね。ここからあたしたちのレンジャーライフが始まるのね……」
アカツキは実物のレンジャースクールを目にすることができて感動しているようだ。
一方、ヒトミはこれからの日々に想いを馳せていた。
グラウンドでは野生のポケモンが気ままな営みを見せている。人を警戒する様子は見られないが、それだけ平和で慎ましやかに暮らしているのだろう。
良く知っているポケモンたちが気ままに過ごしているのを一頻り見てから、アカツキは視線をスクールの校舎に留めた。
地下一階、地上二階建ての校舎だと、ホームページの案内で見たことがある。
地下には研究室が設けられているそうで、レンジャーの活動に役立てるための開発や研究が行われているらしい。
一階は教室や実習室、職員室があり、学生が同級生と過ごすことになる寮は二階に位置している。
一つの校舎ですべての用件が事足りるというのも、無駄を徹底的に削除し、学生が勉強に集中できるようにとの学校側の配慮だろう。
「誰とも会わなかったけど、まだ誰も来てないのかな?」
「そういえばそうね。誰とも会ってないわ」
アカツキとヒトミは、改めて周囲を見渡した。
時刻は昼の一時過ぎ。
チコレ村からビエンタウンまでは一時間弱で、ビエンタウンからここまで来るのに二時間ほどかかった。
合計で三時間程度の道のりだったが、途中に何度か休憩を挟み、またビエンタウンのレストランで昼食を摂ったため、チコレ村を発って五時間ほどでたどり着くことができた。
「あと五時間くらいあるし、もうちょっとしたらみんなしてゾロゾロ来るんじゃない?
あたしたちはさっさと寮に行きましょうよ。いい加減、かなりくたびれたわ」
「そうだね。そうしよっか」
入学式前日の門限は六時。
門限まではあと五時間ほどあるが、もしかしたらアカツキたちが早く到着しているだけかもしれない。
レンジャースクールは近くの地方を含めても、アルミア地方にしか存在しない施設である。
そのため、陸続きのフィオレ地方や、海を隔てながらも比較的近いとされている他の地方からも生徒が入学するのだ。
そういった場所からやってくる新入生もいるのだから、時間ギリギリになって到着したとしても、不思議ではない。
そう考えれば、自分たちが早く到着しただけと思うのが自然だろう。
チコレ村からここまで歩いてくるのに、少しは疲れている。今のうちに寮でゆっくり休んで、夕食に備えよう。
これからライバルになる相手に、初日(前日)から弱いところは見せられない。
アカツキとヒトミは荷物を手に、校舎へ向かって歩き出した。
校門から校舎までは石畳の道が敷かれているが、これは来客への配慮だろうか。
半島を吹き抜ける涼やかな潮風に気持ちを擽られて、アカツキは早くも心を逸らせていた。
(同級生って、どんな人たちだろ……? みんなと仲良くできればいいなあ……)
三ヶ月間、同じ場所で学び、遊び、そして夢を語り合う仲間である。
仲間であると同時にライバルでもあるが、どうせなら仲良く楽しく過ごしたいと思う。
だから、嫌でも気になる。
知らず知らずに歩幅が広がり、何気にヘトヘトで歩幅も狭くなっていたヒトミが途中で声を上げた。
「ねえ、ちょっとタンマ。あんた足速いよ」
「え、そう?」
言われてふと気づく。
そういえば、すぐ傍で聞こえていたもう一つの足音が、いつの間にやらしなくなっている。
立ち止まって振り返ると、五メートルほど後ろをヒトミが歩いていた。
女の子でもそれなりに体力はある方なのだが、それでも男の子であるアカツキに身体能力で勝てるはずがない。
入学試験のキャプチャではヒトミが勝っていたと言っても、点数にすれば数点程度の違いでしかないのだ。
アカツキは彼女が追いついてくるのをじっと待った。
「気持ちは分かるけどさ……スクールは逃げないんだから慌てなくたっていいじゃん」
「……うーん。ま、それもそうだね」
「それもそうだね……じゃないって。ホント、勘弁してよね〜」
「あははははは♪」
「あははあはは♪ じゃないってば。さっきも言ったじゃん……まあ、いいけどさ」
幾分か噛み合っていない会話に、ヒトミはさらに疲れた表情を隠さなかった。
アカツキはどんな些細な物事でもマジメに傾向があるため、一旦自分のペースに入ると、周囲が目に入らなくなることがあるのだ。
ヒトミにはヒトミの短所があるように、アカツキにもアカツキの短所がある……ということらしい。
双子の姉が追いついてくるのを待ってから、アカツキは歩き出した。
また置いてきぼりにするようなことがあれば、今度は眉を十時十分の形に吊り上げて怒るかもしれないから、少しゆっくり目に歩く。
逸る気持ちを抑えつつ、一歩ずつ確実に踏みしめながら行くうち、校舎の一階に足を踏み入れた。
入口には入学生の受付が設けられていて、二人はまずそこに立ち寄った。
『こんにちは!!』
アカツキとヒトミが声を揃えて元気に挨拶すると、受付の担当者——恐らくはスクールの教師であろう——の女性が笑みを浮かべた。
「はい、こんにちは。お名前を教えてもらえるかしら?」
「チコレ村のアカツキです」
「同じくヒトミです」
背筋をピンと伸ばして名乗ると、女性は机の上の紙に視線を落とした。
人の名前がずらずらと書き連ねられているところを見ると、入学生の名簿のようだ。
アカツキとヒトミの名前を見つけ出し、マーカーで名前をなぞってから顔を上げる。
「アカツキ君に、ヒトミさん……ああ、ありました。
まだ早いですけど、入学おめでとうございます」
『ありがとうございます!!』
「寮は廊下をまっすぐ行った先の階段を登って、二階にあります。
階段を上がった先に部屋割りを記したボードがあるから、それを見て自分の部屋に行ってください。
夕食までは自由行動だけど、あまり騒いだりしないようにしてくださいね」
「分かりました」
アカツキとヒトミは女性に頭を下げると、言われたとおり、廊下をまっすぐ歩いていった。
もっとも、廊下よりはオープンスペースと言った方が似合う佇まいだった。
左右の壁は大きな窓ガラスがはめ込まれており、外の光が存分に入り込み、明るい雰囲気に満ちている。
木目調の天井や床に自然の息吹を感じているのか、廊下にもビッパやピチューの姿が見られた。
特に悪さをするでもなく、だからこそ咎められることなくノンビリしているのだろう。
入口から見て左手と右手にそれぞれ教室があり、奥にある階段の両脇には職員室と図書室がある。
そこのところも、ホームページの案内でチェックしておいたので、案内されなくても理解していた。
まっすぐに階段まで行き、一段飛ばしで駆け上がる。
ここまで来てしまえば、もう迷う心配もないだろう。そう思って、アカツキはヒトミを置いて二階に上がった。
階段を上がった先はサロンになっており、吹き抜けの天井から降り注ぐ陽光で一階以上に明るく開放的な雰囲気があった。
テーブルに、数脚のソファー。テレビはないものの、雑誌や新聞などがラックに立てかけられてある。
もっとも、ポケモンレンジャーを目指して勉学に励む場所でアニメを観るほど余裕があるのかと言われると、『ある!!』と言えないに決まっているのだが。
……と、テーブルの傍にホワイトボードが立てかけられているのが目に入った。
「えっと……確か、部屋割りが書いてあるんだったよね。どれどれ……」
アカツキは小走りに駆け寄り、ボードに書かれた部屋割りを見やった。
階段を上がって右側が男子の部屋で、左側が女子の部屋になっているらしい。
ボードを見る限り生徒は三十人で、男子が十八人、女子が十二人のようだ。
三人で一部屋が宛がわれており、寝起きを共にすることになる。
「えっと……ぼくと同じ部屋の人はダズルにイオリって人?
……どんな人かなあ?」
アカツキは自分が寝起きする部屋を指差した。
同じ部屋には、ダズルとイオリという名前が書かれている。どうやら、ルームメイトはこの二人らしい。
当然聞いたことのない名前だが、だからこそ気になる。
明るく活発な人なのか、それとも物静かで研究者タイプの人なのか……嫌でも気になる。
期待を馳せるアカツキだったが、ヒトミがやってきたことに気づいて、顔を向けた。
「三人で一部屋なんだ。
あたしは……リズミって子と一緒なのね。あとはアキバって子もいるわね。同級生だし、仲良くしたいな」
「そうだよね。ぼくも知らない人が一緒だから、仲良くしたいよ」
「それじゃ、部屋に行こっか」
すべての部屋の生徒の名前を確認してから、それぞれの部屋に向かおうとした時だった。
左手——女子の部屋の方から足音が聴こえてきた。
顔を向けると、淡い金髪を背中に伸ばした少女がゆっくりとした足取りで歩いてくるところだった。
顔立ちは整っており、パッチリと見開かれた目は活発な印象を受ける。
細身のヒトミよりもさらに身体の線が細く、お世辞にもポケモンレンジャーに向いているとは思えない体格の少女だった。
「やっと他の人が来てくれたわね。待ちくたびれちゃった」
「えっと、キミは?」
薄い紺色の上下に若葉色の上着——早くもスクールの制服を身にまとった少女に、アカツキが問いかける。
同じクラスになるのか、それとも別なのかは分からないが、彼女も同級生の一人だろう。
それならば、今のうちから仲良くしておきたい。
そう思っているのはアカツキとヒトミだけでなく、金髪の少女も同じだったらしく、すぐさま自己紹介に入った。
「わたしはリズミ。プエルタウンから来たのよ」
「リズミ……ってことは、あなたがあたしのルームメイトね。
あたしはヒトミ。こっちはアカツキ。一応あたしたち姉弟で、チコレ村から来たの。よろしくね」
少女——リズミがルームメイトだと分かってうれしいのだろう。
ヒトミが満面の笑みで手を差し出すと、リズミも笑顔で握手に応じてくれた。
「ええ、こちらこそよろしく。
あなたたち、姉弟なんだ……道理で似てると思ったわ」
「似てるなんて冗談じゃないわ。あたしの方が先に生まれたんだから、そっちが勝手にあたしに似てるだけよ」
「うわ、ひどい言い方しないでよ〜。双子なんだから似てて当然じゃない」
「双子……珍しいわね。双子でスクールに入学するなんて」
アカツキとヒトミ、それからリズミは出会って早々、何気に打ち解けていた。
生まれも育ちも違うけれど、似た者同士だと互いに思ったのだろう……子供ならではの先入観のなさが為せるワザかもしれない。
一通り自己紹介してから、場所をテーブル脇のソファーに移して、三人はあれこれと話を続けていた。
「アカツキとヒトミは……レンジャー志望なの?」
「うん。ぼくもヒトミもレンジャーになりたいって思って入学したんだよ。
……そういうリズミは?」
「わたしはオペレーターかな。
身体が丈夫な方じゃないし、レンジャーよりはオペレーターの方が向いてるって思って」
「そうなんだ……でも、オペレーターも大事な仕事だよね。
レンジャーにいろいろ情報を与えたりとか、レンジャーと息がピッタリ合ってなきゃいけないもんね」
「ええ」
リズミもそれなりに勉強してきているらしく、アカツキとはよく話が合った。
リズミが志しているオペレーターは、レンジャーに必要な指示と情報を与えるのが仕事である。
裏方という位置づけではあるが、上層部からの指示はもちろん、レンジャーが現在置かれている状況やミッションの内容から、どのような手段を用いれば最善の結果を導き出せるか……そういったことを考えた上で指示を与えなければならないため、現場が見えない分、レンジャーよりも難しいという見方もできる。
オペレーターを目指す彼女がどうしてポケモンレンジャーの育成機関であるレンジャースクールに入学したかと言うと、スクールではレンジャーだけでなく、オペレーターやメカニックの基礎知識の授業がカリキュラムに組み込まれているからである。
メカニックはその名の通り、ポケモンレンジャーが扱う機器やレンジャーユニオンの通信等のシステムを保守・点検する職業。
形は違えど、レンジャー、オペレーターと共にレンジャーユニオンを支えている重要なファクターなのだ。
しかしながら、レンジャースクールでの教育はどうしてもポケモンレンジャーに対するものが中心となるため、オペレーターやメカニックを志す生徒は、自分が目指す職業の知識や技量を十分に身につけることができないという弊害が発生する。
そこで彼らは卒業後、海を越えて遥か北にあるこの国の本土の教育機関でより高等な授業を受けることになる。
それぞれの目指す職業についてあれやこれや話しているうちに、続々と入学生が階段を上がってきた。
一様に似通った年齢であることも重なって、話の輪に加わる人数が加速度的に増え、四時過ぎには二十人以上がサロンでわいわい騒ぐような状況になっていた。
その頃には話に加わった生徒の顔と名前も一致するようになっており、気兼ねなく話せる間柄にまで発展していた。
同年代で、なおかつ将来の目標も似通っているのだから、話に花が咲くのは自然な流れと言えた。
アカツキはルームメイトにもなっている少年——イオリとの話に興じていた。
イオリはアカツキより一つ年上で、十四歳。
いかにもおとなしげな顔立ちで、漂わせる雰囲気はとても穏やかで知的なものだった。
一見するとどこにでもいる少年だが、何よりも目を引くのは、メロンパンのような髪型だった。
俗に言う坊ちゃんヘアーというヤツで、遠くから見ると頭にメロンパンを載せているようにも見える。
……まあ、外見的な特徴はともかく、話をしているうちに、アカツキは入学試験の筆記で一位を取ったのがイオリであることを確信した。
何やら難しげな数式を話に混ぜ込んだり、キャプチャ・スタイラー(レンジャーがポケモンの気持ちを借りるために使用する道具)の機能がどうのこうのと言っていたので、どうやらメカニックを志望しているようだ。
「さすがに、レンジャーを目指して猛勉強してただけのことはあるね。よく勉強してるって、話の内容からも分かるよ」
「そうでもないよ。これくらい当たり前だって思ってたから」
「それが君の強みだと思うよ」
「そうかなあ……?」
イオリの方も、話を通じてアカツキのことを理解しているようだった。
話を始めた時は気楽そうな相手だと思っていたようだが、談笑する中にもマジメで一本槍なところがあると見抜いたらしい。
「まあ、それはおいといて、三ヶ月間、よろしく頼むよ。
僕は朝が弱いから、なかなか起きられなくてね……目覚ましとかでも起きなかったら、思いっきり叩き起こしてくれないか?」
「うん、分かった」
「それより、ダズルって子はまだ来てないのかな?」
「そうみたい」
イオリに問いかけられ、アカツキは改めて周囲を見渡した。
先ほどよりも人数が若干増えているようだが、誰も話しかけてこないところを見ると、もう一人のルームメイト——ダズルは来ていないようだ。
壁にかけられた時計は四時半を指している。
あと一時間半あるとはいえ、時間的な余裕を持たせた上で行動するのが常である。
よほど遠くから来るのか、それとも単に時間に余裕があるからとゆっくり来るのか。
どちらにしても、アカツキとイオリは気を揉んでいた。
どちらともなく視線を合わせる。
——来たら、その時はたっぷり質問攻めにしてやろう。
言葉を交わしたわけではなかったが、互いに言いたいことを視線で察した。
……などと半分冗談めいたことを考えていると、ドタバタと階段を駆け上がってくる音が聴こえた。
もしかしたらと思って顔を向けてみると、茶髪の少年が階段を駆け上がり、何やら息を切らしていた。
話に夢中になっている生徒たちは気づいていなかったが、約半数は突然の物音に、視線を少年に据えていた。
クセがあるのか、茶髪のところどころが跳ねていたりするが、活発でエネルギッシュな性格を覗わせる顔立ちの少年だった。
年の頃はアカツキとほとんど変わらないだろう。あどけない表情の中にも、自分に対する自信が満ちているようにも見えた。
「うわー、何気に人集まってんじゃん。
……ま、最後じゃないからいっか」
少年は周囲の視線などものともせず、ホワイトボードに駆け寄って、自分の部屋を確認し始めた。
「ふーん。オレと一緒の部屋のヤツは……アカツキとイオリってヤツだな」
どうやら、彼がアカツキとイオリのルームメイト——ダズルのようだった。
歯に衣着せぬ物言いだが、下手にかしこまられるよりはよほどマシだろう。
声をかけようかと思ったところで、アカツキとダズルの目が合った。
目が合って、一番話しかけやすい雰囲気だと察してか、ダズルはアカツキの傍まで歩いてくるなり質問を投げかけた。
「なあ、アカツキって誰か知らない?」
予想通りの質問だった。
イオリは「もっと違う言い方があるだろう……」と言いたげに頬を膨らませていたが、アカツキは気にしていなかった。
早くいろいろ話をしたいとばかり思っていたからだ。
「ぼくがアカツキだけど、キミがダズル?」
「おおっ、一発目でルームメイト発見!! 今日のオレって何気に冴えてるぅ〜♪
よろしくなっ。あと、イオリってのは……」
「僕だけど。それより君、人に質問する時は自分から名乗るものだよ」
「悪い悪い。ついつい気持ちがアゲアゲでさ……勘弁な」
「……まあ、いいんだけど」
アカツキは気にしていないが、イオリは違った。礼儀については人一倍厳しいのだ。
増してや、初対面の相手に対する質問の仕方ではないと思って、ついムキになってしまった。
まあ、三ヶ月間共に過ごすことになる相手だし、今から目くじら立てていても仕方がない。
当人も理解しているようだから、これ以上口うるさく言ってもこちらの気分が悪くなるだけだ。
イオリがそれなりに腹を立てていることを表情と雰囲気から察して、ダズルは先ほどまでのハジけまくった言い方をしなくなった。
「アカツキにイオリ……だな。
オレはダズル。フィオレ地方から来たんだ。よろしくな」
「そっか。だから遅くなったんだね」
「そーゆーこと。
……でもまあ、みんな何気に歳近いんだな。五歳くらい歳違うヤツが一緒だったらどうしようって思ってたけど、心配は要らなかったな。良かった良かった」
ダズルはルームメイト——いや、その他の同級生も同年代であることに安心しているようだった。
フィオレ地方から来たと言っていたが、フィオレ地方はアルミア地方と陸続きで、位置的にはアルミア地方の西に当たる。
陸続きのため、隣の地方と言ってもいいだろう。
「フィオレ地方か……じゃあ、船で来たのかい?」
「ああ。歩きじゃさすがにキツイからさ。
ところで、アカツキとイオリはここの地方に住んでるのか?」
「うん。ぼくはチコレ村って言って、ここからだと南西に向かったところにある村に住んでる」
「僕はプエルタウン。
船が停泊した港に隣接する街だから、分かると思うけど」
「そういや、街の北にでっかい塔が建ってたな。まだ途中だって話を聞いた」
「それはアンヘル・コーポレーションの新本社ビルだね。
一大プロジェクトを実行するとかで、その記念で新しい本社ビルを建てることになったって聞いたよ」
「へえ……すげえなあ」
自己紹介を済ませたところで、話題はフィオレ地方屈指の大企業アンヘル・コーポレーションに移った。
ダズルはアルミア地方に初めて来たそうで、船の甲板から大規模なビル開発が行われている様子を目の当たりにして驚いたらしい。
アンヘル・コーポレーションと言えば、アルミア地方の住民なら誰もが知っている大企業。
元々は石油や石炭の発掘と小売を行っていたそうだが、今では飛躍的に発展を遂げたマンモス企業だ。
生活必需品の多くを手がけており、化粧品から食用油、洗剤に至るまで、ありとあらゆるジャンルの製品の製造や流通を担っており、アルミア地方では断トツのシェアを誇る。
近年は『石油に代わるクリーンなエネルギーで、アルミア地方に明るい未来を』をキャッチコピーに、環境に優しいエネルギーの開発を行っているそうだ。
詳しいことまでは知らないが、アカツキもアンヘル・コーポレーションが新本社ビルを建築していることは知っていた。
大企業のビルがほとんどないフィオレ地方ではまず考えられないことだけに、ダズルが珍しがるのも無理はない。
これからいろいろな意味で世話になるであろうアンヘル・コーポレーションについて、イオリがダズルにあれこれ説明する。
ダズルは物珍しげな表情で彼の説明に聞き入っていたが、やがて説明が終わり、話題が変わった。
「そういや、アカツキとイオリもレンジャー志望?
オレはもちろんレンジャーになりたくて入学したんだけどさ」
「うん。ぼくもレンジャーになりたいって思ってる」
「僕はメカニックかな。あまり、身体を動かすのは得意じゃないから、レンジャーよりはまだ役立てると思う」
「そっかあ……」
三人がそれぞれの目標について話すと、ダズルは得意げな笑みをアカツキに向けた。
「そんじゃあ、アカツキはオレのライバルってことだな。負けないぜっ」
「ぼくだって負けないよ。一位のまま卒業するからね」
「そうでなきゃつまんねえぜ……って、今なんつった? 一位のままって聴こえたんだが……」
同じレンジャー志望ということもあって、ダズルは早々にアカツキをライバルとして認定したようだ。
しかし、アカツキの言葉に引っかかるものを感じたのか、眉根を寄せた。
「うん。なんか、入学試験でぼくが一位だったらしいんだ」
「マジ……?
だったら、なおさら負けてられねえな。よしっ、こうなりゃオレが一位で卒業してやるぜ!!」
「うん、ガンバってね」
「…………」
微妙に噛み合っていないやり取りに、イオリは怪訝な面持ちで首を傾げた。
対抗心むき出しのダズルに対して、アカツキもそれなりに対抗心は持ち合わせているようだが、むしろライバルという関係を楽しんでいるように見えて仕方ない。
下手にムキになるよりも、むしろ少しくらい余裕を持っている方が有利かもしれない……イオリは二人のやり取りを第三者的な視点で見て、論理的に考えていた。
——なんだか、面白いことになるかもしれない……と。
To Be Continued...